この計算機は住む場所も年齢も業種も聞かない
このサイトの計算機が聞くのは、資産・固定費・収入・確定申告の区分・配偶者の区分と収入・配偶者の手取りから保険料が引かれているか・子の人数です。住んでいる市区町村も、あなたの年齢も、始める事業の業種も聞きません。
けれど、退職後に払う額はどれでも変わります。国民健康保険の料率は市区町村が条例で決めるので自治体ごとに違いますし、介護分を負担するのは40歳から64歳までの人だけです。配偶者控除の額は配偶者が70歳以上かどうかで変わり、個人事業税の税率は業種で3%から5%まで分かれます。
聞かずに計算するために、この計算機は聞かなかったぶんの数値を高く出る側に固定しています。この記事は、その固定した値が制度の値とどう違うのかを並べたものです。制度の解説ではなく、この計算機が何を採用しているかの開示です。
国民健康保険は「包絡線」で計算している
国民健康保険料は、医療分・後期高齢者支援金分・介護納付金分・子ども・子育て支援金分という4つの成分の合計で、成分ごとに所得割率・均等割(加入者1人あたり)・平等割(1世帯あたり)が決まっています。この計算機は、令和8年度の料率を一次情報で確認できた8つの自治体(大阪市・川崎市・横浜市・名古屋市・札幌市・広島市・新宿区・福岡市)について、成分ごとに最大の値を取った合成の自治体で計算しています。これを包絡線と呼んでいます。
| 項目 | 包絡線 | 実在する最大 |
|---|---|---|
| 所得割率(4成分計) | 15.82% | 15.44%(大阪市) |
| 均等割(成人1人) | 88,746円 | 84,873円(新宿区) |
| 平等割(1世帯) | 53,657円 | 51,100円(札幌市) |
なぜ「いちばん高い自治体ひとつ」を選ばないのか。成分ごとの最高額が、別々の自治体に散っているからです。所得割率が最も高い大阪市(15.44%)は、均等割では5位の66,704円です。均等割が最も高い新宿区(84,873円)は、所得割率では7位の13.01%です。平等割が最も高い札幌市(51,100円)は、均等割では8位の34,000円です。
実在する自治体をどれかひとつ選ぶと、その自治体が1位でない成分について、必ず他の自治体に対して安く出る帯が残ります。所得割率が高い自治体を選べば所得が低い人に対して安く出て、均等割が高い自治体を選べば所得が高い人に対して安く出ます。成分ごとに最大を取ると、どちらの帯でもそれが起きません。
実在するどの自治体よりも高く出る
包絡線は実在しない合成の自治体なので、実際に住める市区町村のどこよりも高い額になります。前年の所得が400万円の単身世帯(令和8年度)で並べると、次のとおりです。
| 計算の対象 | 年間の保険料 |
|---|---|
| この計算機(包絡線) | 70.7万円 |
| 大阪市(8自治体で最大) | 66.3万円 |
| 福岡市(8自治体で最小) | 49.3万円 |
上振れが最大になる所得帯では、次の幅になります。
| 世帯 | 実在する最大との差 | そのときの所得 |
|---|---|---|
| 単身 | 年5.0万円ほど | 548万円 |
| 夫婦2人 | 年7.0万円ほど | 482万円 |
| 夫婦+子1 | 年9.4万円ほど | 482万円 |
このサイトには、8つの自治体の実額を並べた退職後の健康保険はいくらになるかという記事もあります。**あちらの表とこの計算機とでは、同じ条件でも金額が一致しません。**あちらは実在する自治体の実額で、自分の市区町村がどのあたりに位置するかを見るためのものです。この計算機は、住所を聞かずに「辞められるか」を判断するためのものなので、どの自治体に住んでいても足りる額を使っています。
聞かないことで高く出している4つ
年齢と業種を入力させない代わりに、次の4つを高く出る側に倒しています。いずれも、あなたが該当すれば実際の負担はこれより軽くなります。
**個人事業税を全員第1種事業(5%)で計算しています。**個人事業税の税率は法定業種ごとに決まっていて、第1種事業(37業種)が5%、第2種事業(3業種)が4%、第3種事業(30業種)が5%または3%です。この計算機は業種を聞かないので、いちばん重い5%を全員に当てています。なお、個人事業税がかかるのは法定業種に当たる事業だけです。東京都主税局は、法定業種は70の業種があり、ほとんどの事業が該当するとしています。税率は業種で変わるので、ご自分の事業がどの業種に当たるか、そもそも法定業種に当たるかは、東京都主税局が挙げている法定業種の一覧でお確かめください。4%または3%の業種に当たる場合も、法定業種に当たらない場合も、実際の負担はこの計算機より軽くなります。
**介護納付金分を成人全員に課しています。**制度上、介護納付金分を負担するのは介護保険の第2号被保険者、つまり40歳から64歳までの人だけです。新宿区の令和8年度なら、均等割17,800円と所得割2.43%がこの年齢の加入者にだけかかります。この計算機は年齢を聞かないので、成人を全員40歳から64歳とみなしています。39歳以下の人は、この分を払いません。
**未就学児の均等割5割軽減を使っていません。**令和4年4月から、未就学児にかかる均等割保険料はその5割が公費で軽減されます。低所得世帯向けの7割・5割・2割軽減とは別枠で、軽減後の額をさらに半分にする仕組みです。この計算機は子の年齢を聞かないので、入力された子を全員就学児として扱っています。未就学のお子さんがいる世帯では、その子の均等割が実際には半分になります。
**配偶者控除を70歳以上でも38万円で計算しています。**その年の12月31日時点で70歳以上の控除対象配偶者は老人控除対象配偶者と呼ばれ、所得税の控除額は38万円ではなく48万円です(本人の合計所得金額が900万円以下の場合)。この計算機は配偶者の年齢を聞かないので、70歳以上の配偶者にも一般の配偶者と同じ38万円を当てています。控除が10万円少ないぶん、税額が高く出ます(本人の合計所得金額が900万円を超えると、どちらの額も段階的に下がります。この計算機はその段階を持っています)。
住民税の均等割は6,000円で置いている
住民税の均等割の標準税率は、道府県民税1,000円と市町村民税3,000円の合計4,000円です。これとあわせて、令和6年度から森林環境税(国税)が1人年額1,000円徴収されます。合計すると5,000円です。
この計算機は6,000円で計算しています。差は年1,000円で、これも高く出る側への丸めです。総務省は、これらの基準を踏まえたうえで「都道府県や市町村は自らの判断で税率を定め、納めるべき額を決定しています」としており、標準税率どおりとは限らないためでもあります。
基礎控除は「高く出る側に倒している」ではない
ここまでの5つは、制度の値をわざと不利な側に丸めたものです。基礎控除はこれに当たりません。
所得税の基礎控除は単一の金額ではなく、その人の合計所得金額で段階的に変わります。令和8年分は次のとおりです。
| 合計所得金額 | 基礎控除 |
|---|---|
| 489万円以下 | 104万円 |
| 489万円超 655万円以下 | 67万円 |
| 655万円超 2,350万円以下 | 62万円 |
| 2,350万円超 2,400万円以下 | 48万円 |
| 2,400万円超 2,450万円以下 | 32万円 |
| 2,450万円超 2,500万円以下 | 16万円 |
| 2,500万円超 | 0円 |
この計算機は、この段階をそのまま持っています。住民税の基礎控除も同じように、合計所得が2,400万円以下なら43万円、2,400万円を超えると29万円・15万円・0円と下げて計算しています。だから上の一覧には入りません。
ここを「62万円で固定」にすると、**誤差の向きが所得で反転します。**合計所得が489万円以下の人には控除が42万円足りないので税額が高く出ますが、2,350万円を超える人には控除が過大になり、税額が実際より低く出ます。固定値は「常に高く出る側」にはなりません。段階を持つことが、ここでは制度どおりであると同時に、誤差の向きを一定に保つ条件にもなっています。
国民健康保険の所得割が対象にする旧ただし書き所得(総所得金額等 − 基礎控除)の基礎控除だけは、43万円で固定したままです。ただし、この固定が制度と食い違うのは基礎控除が43万円から下がる合計所得2,400万円超の帯だけで、その帯では包絡線の4成分がすべて賦課限度額に当たっているので、43万円のままでも保険料は1円も変わりません。
なぜ高く出る側に倒すのか
この計算機が答えようとしているのは「いま辞めても大丈夫か」です。この問いを外したときの損害は、向きによって大きさが違います。
足りない見積もりを信じて辞めれば、想定より早く貯金が尽きます。多めの見積もりで辞めれば、思っていたより長くもちます。同じ幅の誤差でも、後者のほうが取り返しがつきます。だから、迷ったときは高く出る側に倒しています。
**ただし、多すぎる見積もりにも害があります。**支出を過大に見積もれば、実際には辞められる人に「まだ無理」と言うことになります。上で包絡線と実在する自治体の差を金額で示したのは、そのためです。差を伏せたまま高く出すのは、低く出したまま何も書かないのと同じくらい不誠実だと考えています。
計算に入れていないものも、同じ向きです
次のものは計算に入れていません。いずれも「入れれば楽になる」側なので、入れないことで結果は厳しい側に出ます。
健康保険の任意継続(被保険者期間は2年間。国民健康保険より安くなる場合があります)、退職金と失業給付(受け取れば資産が増えます)、高額療養費制度、事業の経費(引けば課税所得が下がります)。
扶養控除も入れていません。ここだけは非対称になっていて、入力した子は国民健康保険の均等割には頭数として乗る(=保険料が上がる)のに、所得税・住民税の扶養控除では税額が下がりません。扶養控除の額は年齢で変わる(16歳未満は対象外、16歳以上は38万円、19歳以上23歳未満は63万円)ため、年齢を聞かない以上は入れられないという判断です。結果としては、これも厳しい側に出ます。
低く出る可能性が残っているところ
いま把握しているのは4つです。
**1つ目は、住む自治体です。**8つの自治体より高い成分を持つ自治体があれば、そこにお住まいの方に対しては国民健康保険料が安く出ます。包絡線は「確認できた8自治体の最大」であって、全国の最大ではありません。
**2つ目は、個人事業税の事業主控除を月割にしていないことです。**事業主控除は年間290万円ですが、営業期間が1年に満たない年は月割になります(1か月なら242,000円、6か月なら1,450,000円)。この計算機には退職した月という概念がなく、1年目と2年目以降の区別しか持っていないので、290万円を丸ごと引いています。年の途中で辞めた人の翌年の事業税は、この試算より多くなります。年の途中で辞めるほうがむしろ普通なので、該当する人は少なくありません。
**3つ目と4つ目は、「配偶者の手取りから国民健康保険料が引かれている」で「はい」を選んだ世帯に限って出ます。**この世帯では、世帯の保険料をすでに配偶者が納めているので、計算機はあなたが加わることで増える分だけを支出に足します。
この引き算では、いまの世帯を配偶者おひとりとして計算しています。あなたは退職するまで勤め先の健康保険に入っているので、お子さんもあなたの被扶養者で国民健康保険にはいない、という前提です。ただし夫婦共同扶養では年間収入の多いほうの被扶養者とする扱いがあるため(令和3年4月30日 保保発0430第2号・保国発0430第1号)、配偶者の収入があなたより多い世帯では、お子さんが実際に配偶者の国民健康保険に入っていることがあります。その世帯ではふつうお子さんの均等割のぶん高く出ますが、引く側の加入者が増えると法定軽減が広がるため、配偶者の手取りによっては逆に低く出る帯が残ります(お子さんが1〜2人の世帯で起きます)。計算機の画面では、その下端と幅の目安を示しています。
その3つ目は、増える分にかかる社会保険料控除です。制度上の納付者は世帯主である配偶者なので、本来は世帯の保険料が全額配偶者側の控除に立ちます。この計算機は、実際に負担するのがあなたである増える分だけを、あなた側の控除にしています。負担と控除を揃えるための割り切りで、残る差(増える分にかかる住民税・所得税、年1.5万円ほど)は低く出る側です。
4つ目は、その増える分が8つの自治体に対してしか上限になっていないことです。1つ目と似ていますが別の話です。包絡線は未知の自治体もおおむね覆いますが、引き算の側は覆えません。差し引く額について安全なのは「知らないなら引かない」だけで、それをすると引ける額が0になってこの機能が消えます。そこで8つの自治体それぞれで増える分を出し、その最大を取っています。一覧の外の自治体に対する保証は、その時点で無くなります。
**この4つで全部とは書けません。**網羅を検証した結果ではなく、見つかったものを並べているだけです。この記事の初稿では2つでした。そのあとのレビューで個人事業税の2件が見つかり、入れ替わりに住民税の基礎控除の逓減が実装されて1件消えたので、3つになりました。さらにそのうちの1件(個人事業税の課税標準から青色申告特別控除を引いていた件)も実装が直って消え、代わりに上の3つ目・4つ目が増えて、いまの4つです。数え上げは増えることも減ることもあります。
何ヶ月もつかを見る
ここに書いた前提を踏まえたうえで、貯金が何ヶ月もつかを出せます。数字が厳しく出たときは、それが包絡線のぶんなのか、本当に足りないのかを、上の差額(単身で年5万円ほど)を目安に読み替えてください。
実際に住む市区町村の保険料を知りたい場合は、退職後の健康保険はいくらになるかに8自治体の実額と、自分の自治体で調べる手順を書いています。