「退職給付金」という制度は無い — 独立するなら受給期間の特例を2か月以内に申請する

「退職給付金」は制度の名前ではない

独立を考えて調べ始めると、「退職給付金」という言葉に行き当たります。この名前の公的な制度はありません。

国民生活センターは2025年12月3日の発表資料で、雇用保険制度に基づく失業等給付について「一般に『失業保険』や『失業手当』、『失業給付』、『退職給付金』などと呼ばれることもある」と書いています。制度の名前ではなく、通称の一つです。正式には雇用保険の失業等給付で、この記事が扱うのはそのうちの基本手当です。

制度名ではない語なので、検索したときに上位に来るのは行政のページとは限りません。国民生活センターに寄せられた「失業保険の申請サポート」に関する相談は、2021年度42件、2022年度54件、2023年度113件、2024年度217件と増え続け、2025年度は10月31日までで216件に達しています。前年度の同じ時期は90件でしたから、2.4倍です。

相談の中身として目立つものが3つ挙げられています。依頼しても受給額が増えなかった。解約を申し出たら認められなかったり違約金を請求された。うつ病などの不調がないのに指定のクリニックで受診するよう指示された。3つ目について、国民生活センターは不正受給を促すかのような誘導だとしています。

給付額も給付期間も、ハローワークの審査で決まります。事業者が増やせるものではありません。

事業を始めると基本手当は受けられない

基本手当を受けるには、失業の状態にあることが条件です。ハローワークはこれを「就職しようとする積極的な意思があり、いつでも就職できる能力があるにもかかわらず、本人やハローワークの努力によっても、職業に就くことができない状態」と定義しています。

独立して事業に専念していれば、この状態には当たりません。事業の準備に専念している段階でも同じです。つまり、辞めて独立する人にとって、基本手当は辞めた直後に受け取れるお金ではありません。

これは離職理由の問題ではなく、状態の問題です。自己都合で辞めたから受け取れない、という話ではありません。

受給期間の特例 — 権利は最大3年間消えない

受給期間は、原則として離職日の翌日から1年です。この1年を過ぎると、所定給付日数が残っていても基本手当は受けられません。独立して1年以上経ってから事業をたたんだ場合、原則どおりなら権利は残っていないことになります。

ここに特例があります。離職日の翌日以後に事業を開始等した人は、事業を行っている期間のうち最大3年を受給期間に算入しない特例を申請できます。原則の1年と合わせると、離職から最大4年の間、基本手当を受ける権利が残ります。

申請期限は、事業を開始した日・事業に専念し始めた日・事業の準備に専念し始めた日の翌日から2か月以内です。住所または居所を管轄するハローワークに申請します。代理人でも郵送でも構いません。この2か月を過ぎると特例は申請できず、原則どおり離職から1年で権利が消えます。独立の準備で最も忙しい時期に重なる期限なので、辞める前に知っておく必要があります。

特例の要件は次のとおりです。

事業の実施期間が30日以上であること。「事業を開始した日」「事業に専念し始めた日」「事業の準備に専念し始めた日」のいずれかから起算して30日を経過する日が、受給期間の末日以前であること。その事業について就業手当または再就職手当の支給を受けていないこと。その事業により自立することができないと認められる事業ではないこと。離職日の翌日以後に開始した事業であること。

4つ目の「自立することができないと認められる事業ではないこと」は、雇用保険の被保険者となる人を雇い入れて雇用保険適用事業の事業主となるか、登記事項証明書・開業届の写し・事業許可証などの客観的資料で事業の開始、事業内容と事業所の実在が確認できれば該当します。一人で始める場合は、開業届の写しがこの客観的資料にあたります。

5つ目には補足があり、離職日以前にその事業を開始していて、離職日の翌日以後にその事業に専念する場合も含まれます。副業として始めていた事業に専念する形での独立も対象になります。

この特例は、基本手当を受けながら事業をやる仕組みではありません。受け取る権利を凍結しておき、事業をやめて求職活動に戻ったときに受け取る仕組みです。

特例と再就職手当は、どちらか一方しか選べない

再就職手当は、基本手当の受給資格が決まったあとに早期に安定した職業に就いた場合に支給されるもので、事業を開始した場合も対象になります。独立する人にとっては、特例と並ぶもう一つの選択肢です。

ただし、特例の要件に「その事業について就業手当または再就職手当の支給を受けていないこと」があるとおり、同じ事業について両方を受けることはできません。

再就職手当の額は、基本手当の支給残日数に給付率と基本手当日額を掛けた額です。給付率は、支給残日数が所定給付日数の3分の2以上なら70%、3分の1以上なら60%です。再就職手当の計算に使う基本手当日額の上限は、60歳未満6,745円・60歳以上65歳未満5,454円で、後述する基本手当そのものの上限とは別の額です。この上限は毎年8月1日に改定されます。

自営を開始した場合に再就職手当の対象になるのは、待期期間が満了してから1か月の期間が経過したあとです。給付制限がある人でも、この1か月を過ぎていれば対象になります。申請書は事業を開始した日の翌日から1か月以内に提出します。このほか、過去3年以内の就職について再就職手当または常用就職支度手当を受けていないこと、受給手続き後の7日間の待期期間が満了していることなどの要件があります。

どちらを選ぶかは、事業が続く見込みをどう見るかで変わります。再就職手当はその場でまとまった額を受け取れますが、受け取った時点で残りの権利は減ります。特例は今は1円も受け取れませんが、事業がうまくいかなかったときに所定給付日数をまるごと使えます。事業に自信があるなら再就職手当、当面の資金に余裕があって失敗時の備えを厚くしたいなら特例、という整理になります。

考える時間は2か月ではありません。特例の申請期限は事業開始等の翌日から2か月以内ですが、再就職手当の申請書の提出期限は事業を開始した日の翌日から1か月以内です。迷っているうちに1か月を過ぎると、残る選択肢は特例だけになります。実質的な判断期限は1か月です。

再就職手当を選ぶ場合は、基本手当の受給資格が決まっていることが前提になります。辞めたあとハローワークで求職の申込みをして受給資格の決定を受けておかないと始まりません。特例の5つの要件に受給資格の決定は入っていません。

もらえる日数と、1日あたりの額

所定給付日数は、被保険者であった期間・離職時の年齢・離職の理由で決まります。ただし独立のために自分の意思で辞める場合は、一般の離職者の区分になります。

被保険者であった期間 所定給付日数
1年以上10年未満 90日
10年以上20年未満 120日
20年以上 150日

この区分は全年齢共通で、年齢による違いがありません。倒産や解雇で離職した特定受給資格者の表には年齢の区分があり、日数も最大330日まで伸びますが、自己都合の退職には当てはまりません。検索して出てきた表に年齢の行があったら、それは自分が見る表ではないと判断できます。

基本手当を受けるには、離職日以前2年間に被保険者期間が通算12か月以上あることも必要です。

1日あたりの額は基本手当日額といい、離職前6か月に毎月決まって支払われた賃金の合計を180で割った賃金日額の、おおよそ50〜80%(60歳から64歳は45〜80%)です。賃金が低い人ほど率が高くなります。令和8年8月1日現在、基本手当日額の上限は、30歳未満7,450円・30歳以上45歳未満8,270円・45歳以上60歳未満9,110円・60歳以上65歳未満7,830円です。この上限は毎年改定されます。

45歳以上60歳未満で被保険者であった期間が20年以上の人が上限に当たった場合、9,110円×150日で136万6,500円です。所定給付日数をすべて使い切った場合の額で、実際には受け取る前に再就職すればそこで止まります。

給付制限は1か月。ハローワークの案内には2か月のままのページがある

この節が効くのは、独立せずに求職活動をする場合と、事業をたたんでハローワークに戻ってきた場合です。事業に専念している間は失業の状態に当たらず基本手当そのものが出ないので、給付制限を待つ場面もありません。

正当な理由がなく自己の都合で退職した場合、受給資格決定日から7日間の待期期間が満了したあと、一定期間は基本手当が支給されません。これを給付制限といいます。

退職日が令和7年4月1日以降であれば、給付制限は原則1か月です。同年3月31日以前の退職は原則2か月でした。ただし、退職日から遡って5年間のうちに2回以上、正当な理由なく自己都合退職して受給資格決定を受けている場合は3か月になります。自己の責めに帰すべき重大な理由による解雇(重責解雇)も3か月です。

ハローワークインターネットサービスの「雇用保険の具体的な手続き」のページは、2026年9月18日の時点でまだ「待期期間満了後2か月間」と書いたままです。改正後の1か月は厚生労働省のページとリーフレットで確認できます。この記事が給付制限について厚生労働省側のページを出典にしているのは、そのためです。

さらに、令和7年4月以降にリ・スキリングのために教育訓練等を受けた場合、または受けている場合は、給付制限が解除されます。対象になるのは、令和7年4月1日以降に受講を開始した次の4つのいずれかです。教育訓練給付金の対象となる教育訓練、公共職業訓練等、短期訓練受講費の対象となる教育訓練、これらに準ずるものとして職業安定局長が定める訓練。

これを離職日前1年以内に受けたか、離職日以後に受けていることが条件です。離職日前に受けたものについては、途中退校は該当しません。重責解雇された場合はこの扱いの対象外です。

申し出には期限があります。受講開始以降、受給資格決定日または受給資格決定後の初回認定日までに申し出る必要があります。初回認定日以降に受講を開始した場合は、その受講開始日の直後の認定日までです。申し出の際には、訓練開始日が記載された領収書、または訓練実施施設による訓練開始日の証明書が必要になります。受給資格決定日前に訓練を修了している場合は、訓練修了日が記載された修了証明書または証明書です。

独立せずに求職活動をするつもりで何かを学ぶなら、受講のタイミングがそのまま給付制限の長さを左右します。特例を使って独立する場合は、基本手当を受け取るのが事業をたたんだあとになるので、この申し出の期限がそのまま当てはまるとは限りません。

不正受給は最大で受給額の3倍になる

偽りその他不正の行為で基本手当等を受けたり、受けようとした場合は、以後これらの基本手当等を受けられなくなるほか、返還を命じられます。さらに原則として、返還を命じられた不正受給金額とは別に、直接不正の行為により支給を受けた額の2倍に相当する額以下の金額の納付を命じられます。

返還する額に加えてその2倍以下なので、最大で受給額の3倍を支払うことになります。

ハローワークが典型例として挙げているのは、求職活動の実績がないのに失業認定申告書に虚偽の申告をすること、就職や就労、自営を開始したのにそれを失業認定申告書で申告しないこと、内職や手伝いをした事実や収入を隠したり偽って申告することです。3つ目の「自営を開始したのに申告しない」は、独立する人がそのまま当てはまる項目です。

不正受給の責任を負うのは、申請した本人です。国民生活センターも「事業者から事実ではない内容での申請を勧められても、絶対に応じないようにしましょう」としています。事業者に費用を払っていたかどうかは関係ありません。

何ヶ月もつかを見る

基本手当は、辞めた直後の生活費として当てにできるお金ではありません。事業に専念していれば受けられず、特例を使えば権利は残りますが受け取りは先になります。給付制限の1か月と、その前の7日間の待期も挟まります。

このサイトの計算機は、雇用保険の給付を収入に入れていません。辞めたあとに確実に出ていく国民健康保険・国民年金・住民税を織り込んで、貯金が何ヶ月もつかを出します。基本手当は、その計算の外側にある、失敗したときの受け皿として考えるほうが実態に合います。

出ていく側の金額、特に住む市区町村で変わる健康保険料については、退職後の健康保険はいくらになるかにまとめています。

出典

  1. 独立行政法人国民生活センター『失業保険の給付額等を増やすことができるとうたう申請サポートに注意-不正受給を促すかのようなケースも!-』2025年12月3日公表 / 2026年9月18日 確認
  2. 厚生労働省(ハローワークインターネットサービス)『基本手当について』基本手当日額の上限は令和8年8月1日現在 / 2026年9月18日 確認
  3. 厚生労働省(ハローワークインターネットサービス)『基本手当の所定給付日数』2026年9月18日 確認
  4. 厚生労働省(ハローワークインターネットサービス)『就職促進給付』2026年9月18日 確認
  5. 厚生労働省『再就職手当のご案内』令和8年8月1日以降・上限額は令和9年7月31日まで / 2026年9月18日 確認
  6. 厚生労働省『令和7年4月以降に教育訓練等を受ける場合、給付制限が解除され、基本手当を受給できます』退職日が令和7年4月1日以降 / 2026年9月18日 確認
  7. 厚生労働省『リーフレット「令和7年4月以降に教育訓練等を受ける場合、給付制限が解除され、基本手当を受給できます」』令和7年4月1日以降に受講を開始した教育訓練等 / 2026年9月18日 確認