辞めた翌年に届くのは住民税のほうだけ
会社員のあいだ、所得税と住民税はどちらも原則として給与から差し引かれます。差し引かれ方が似ているので同じ仕組みに見えますが、根拠になっている条文は別で、辞めたあとの振る舞いは逆になります。
所得税は、給与を支払う人が「その支払の際」に徴収して国に納めます(所得税法183条1項)。支払が無くなれば徴収も無くなります。会社員だった年の給与に対する所得税の請求が辞めた翌年に届くことは、原則としてありません。年末調整の対象から外れる人には例外があり、これは「辞めた年の所得税は、逆向きにずれる」の節で扱います。
住民税の所得割は、前年の所得について算定した総所得金額・退職所得金額・山林所得金額を課税標準にします(地方税法313条1項)。誰に課すかは1月1日で決まります(同法318条。賦課期日といいます)。金額は前年の所得で決まっていて、その年に所得があるかどうかは関係しません。
年の途中で辞めて収入が無くなっても、翌年1月1日に市町村内に住所があれば、前年の所得に対する住民税が課されます。辞めて最初の1年に届く住民税は、会社員として働いていた年の所得に対するものです。
この対比は「所得税は現年課税、住民税は前年課税」と説明されることがあります。ただし、地方税法にも所得税法にも「現年課税」という語はありません。条文が書いているのは「その支払の際」徴収する(所得税法183条1項)と「前年の所得について算定した」(地方税法313条1項)までで、現年課税は解説側の言い方です。条文を読みに行くときに、この語で探しても出てきません。
毎月の天引きは、6月から翌年5月までの12回
会社員の住民税は特別徴収といって、勤め先が給与から差し引いて市町村に納めています(地方税法321条の3第1項)。給与所得者が少ないなどの特別の事情がある市町村は特別徴収によらないこともできますが、原則はこちらです。市町村は、その年度の住民税額を勤め先と本人に通知します。通知の期限は、その年度の初日の属する年の5月31日です(同法321条の4第2項)。
勤め先は、通知された税額の12分の1を6月から翌年5月まで毎月徴収し、徴収した月の翌月10日までに市町村へ納めます(同法321条の5第1項)。給与明細に載っている住民税は、去年の所得に対して決まった年額を12で割ったものです。
同じ項が、12で割らない場合を2つ置いています。1つは通知が5月31日より後になったときで、12ではなく通知のあった月の翌月から翌年5月までの月数で割ります。もう1つは但書で、通知された特別徴収税額が均等割額以下のときは、最初に徴収すべき月に全額を徴収します。前年の所得が少なくて均等割だけになった人はこちらに当たるので、毎月12分の1という説明にはなりません。
辞めると、この12回が途中で止まります。止まったあとの残りをどう払うかが、次の話です。
辞めた月で、残りの月割額の扱いが変わる
辞めて給与の支払を受けなくなった場合、勤め先はその事由が発生した日の属する月の翌月以降の月割額を徴収して納入する義務を負いません(地方税法321条の5第2項の本文)。徴収されなくなった分は、市町村が本人に納税通知書を送る普通徴収に移ります(同法319条1項)。
同じ項の但書が、残りをまとめて徴収する場合を定めています。地方税法施行規則の見出しは、これを「退職等に伴う給与所得に係る特別徴収税額の一括徴収」と呼んでいます(同規則9条の23)。但書が挙げているのは次の2つの期間で、条件はそれぞれ違います。
| 退職した時期 | 残りの月割額をまとめて徴収する条件 |
|---|---|
| 6月1日から12月31日 | 本人から、まとめて徴収されたい旨の申出があったとき |
| 翌年1月1日から4月30日 | 申出は要らない |
5月中の退職は、但書のどちらの期間にも入っていません。残りが無いからではなく、逆です。特別徴収義務者に指定されるのは当該年度の初日に給与の支払をする者で(同法321条の4第1項)、年度の初日は4月1日です。税額の通知もその年の5月31日までに届きます(同条2項)。5月に辞めると、6月から始まる新年度の12か月分がまるごと残ります。そのうえで事由の発生が5月なので、但書の2つの期間のどちらにも当たらず、申し出てもまとめて徴収してもらえません。5月に辞めた人に起きるのは、1年分が全部普通徴収で来て、一括徴収を選べないという形です。
ここで読み落としやすいのが上の段です。6月から12月に辞めた場合、何もしなければ残りは普通徴収になりますが、申し出れば最後の給与や退職手当からまとめて徴収してもらえます。辞めたあとに納付書で払う手間を避けたい場合は、この申出が選択肢になります。
申出の期限は、給与の支払を受けないこととなった日の属する月の末日です(地方税法施行規則9条の23第1項)。辞めた月のうちに勤め先へ伝える必要があるので、辞めると決めた時点で確認しておくものになります。
残りを特別徴収のまま続ける道はもう1つあって、期限が違います。転職先を通じて申し出れば、市町村はその転職先を特別徴収義務者に指定します(地方税法321条の4第5項)。こちらの期限は、給与の支払を受けなくなった日の属する月の翌月10日です(4月中に受けなくなった場合は同月30日)。上の一括徴収の申出期限(その月の末日)とは別の日なので、続けて読むときに取り違えないところです。辞めたあとに勤めないなら、こちらは選べません。
まとめて徴収されるには、支給額が残額を超えている必要がある
但書には、上の表の2つの期間に共通してかかる条件があります。
当該納税義務者に対してその年の五月三十一日までの間に支払われるべき給与又は退職手当等で当該月割額の全額に相当する金額を超えるものがあるときに限り
その年度の特別徴収が終わる5月31日までに支払われるべき給与または退職手当等が、残っている月割額の全額を超えていることが条件です。超えるものが無ければ、まとめて徴収されません。
ここは「1月から4月に辞めたら必ずまとめて差し引かれる」と読まないところです。申出が要らないのは1月から4月の場合ですが、支給額が残額を超えていなければ、申出の有無にかかわらず条件を満たしません。最後の給与が少なく、退職手当も無い、あるいは残っている月割額のほうが多いという場合は、1月から4月に辞めても普通徴収になります。
支払われるはずだった給与や退職手当の全部または一部が5月31日までに支払われないことになった場合は、同日までに支払われた額から徴収できる額までが徴収されます(地方税法321条の5第2項の但書)。
まとめて徴収されなかった分は、納税通知書で払う
普通徴収は、納税通知書を納税者に交付して地方税を徴収することをいいます(地方税法1条1項7号)。普通徴収に移った分は、市町村から届く納税通知書で自分で納めます。納期は6月・8月・10月・1月の各月中で、具体的な日は市町村の条例で決まります(地方税法320条)。同条の括弧書きは、市町村民税額が均等割額に相当する金額以下の場合を6月中としています。比べているのは道府県民税や森林環境税を含めた年税額ではなく市町村民税額で、相手も市町村民税の均等割額(同法310条の3,000円)です。辞めて所得がゼロになった翌々年のように市町村民税が均等割だけになると、市町村民税額3,000円が均等割額3,000円以下に当たるので、年4回ではなく6月中の1回で届きます。特別の事情があるときは、市町村がこれと異なる納期を定めることもできます。
辞めた時期によっては、残り全部が数回にまとまって届きます。収入が無くなった直後に、会社員時代の所得に対する住民税を年4回以下の単位で払うことになるので、毎月の天引きだったときとは請求の大きさが変わります。
退職金にかかる住民税は、翌年に来ない
「住民税は前年の所得にかかる」は、退職手当等には当てはまりません。
退職手当等に係る所得割は、313条・314条の3・318条にかかわらず、他の所得と区分して、その退職手当等の支払を受けるべき日の属する年の1月1日現在の住所地の市町村が課します(地方税法328条。所得税法199条によって所得税を源泉徴収すべき退職手当等に限られます)。この分離課税に係る所得割は、特別徴収の方法によらなければなりません(同法328条の4)。前年課税の原則も賦課期日の条文も、名指しで外されています。
つまり退職金にかかる住民税は、退職金が支払われるときに差し引かれて、そこで終わります。翌年の納税通知書には乗りません。給与に対する住民税が翌年に来るのとは、扱いが逆になっています。
所得税の側も、退職手当等は支払の際に源泉徴収されます(所得税法199条)。このとき「退職所得の受給に関する申告書」を、支払を受ける時までに支払者を経由して提出します(同法203条1項)。出さないと、退職所得控除を使わずに支払額を基礎に源泉徴収されるので(同法201条3項)、確定申告をするまで手取りが減ったままになります。
辞めた年の所得税は、逆向きにずれる
年末調整には、条文が2つの条件を置いています。給与所得者の扶養控除等申告書を提出した居住者で、その年中に支払うべきことが確定した給与等の金額が2,000万円以下である人に対し、その申告書を経由した勤め先がその年最後に給与等の支払をする場合に行われます(所得税法190条)。年の途中で辞めて、その年に他の勤め先から給与を受けないなら、年末調整を受けないまま年が終わります。
給与等が2,000万円を超える人は、辞めたかどうかに関係なく年末調整の対象から外れます。この場合は翌年2月16日から3月15日までの確定申告で精算するので(所得税法120条1項)、会社員だった年の給与に対する所得税を辞めた翌年に納めることがあります。最初の節で書いた「翌年に届かない」は、ここが例外になります。
源泉徴収された額が本来の税額より多ければ、確定申告をして還付を受けられます(所得税法122条)。辞めたあとに自分で払った国民健康保険料や国民年金保険料は、その年に支払った社会保険料として所得税の社会保険料控除の対象になるので(同法74条1項・2項2号・2項5号)、確定申告で初めて反映されます。
同じ支払は、翌年度の住民税でも控除されます(地方税法314条の2第1項3号)。対象になるものは所得税と住民税で揃っていて、どちらも、支払った社会保険料と給与から差し引かれた社会保険料です。違うのは反映される時期で、所得税はその年分、住民税は翌年度分になります。
住民税が翌年に来るという非対称は、請求の側では不利に働きますが、控除の側でも同じ理屈で翌年度に回ります。辞めた年に払った保険料は、翌年度の住民税を下げます。
住民税の額を決めている制度の値
標準税率は条文に書かれています。
| 課される税 | 標準税率 | 根拠になる条文 |
|---|---|---|
| 住民税の所得割 | 合計10%(市町村民税6%・道府県民税4%) | 地方税法314条の3第1項・35条1項 |
| 住民税の均等割 | 合計4,000円(市町村民税3,000円・道府県民税1,000円) | 地方税法310条・38条 |
| 森林環境税(国税) | 1,000円 | 森林環境税及び森林環境譲与税に関する法律5条 |
所得割の内訳は政令指定都市だけ違っていて、市民税8%・道府県民税2%になります。合計の10%は変わりません。
森林環境税は住民税ではなく国税ですが、市町村が個人住民税の均等割と併せて賦課徴収します(森林環境税及び森林環境譲与税に関する法律7条1項、地方税法319条2項)。令和6年度からの扱いです(同法附則2条1項)。賦課期日は住民税と同じ1月1日です(同法6条)。
定額でかかる部分は、均等割4,000円と森林環境税1,000円を合わせた年5,000円になります。
ただしこれは標準税率です。標準税率は「通常よるべき税率」であって、財政上その他の必要があると認める場合には、これによることを要しないと定義されています(地方税法1条1項5号)。総務省も、これらの基準を踏まえたうえで「都道府県や市町村は自らの判断で税率を定め、納めるべき額を決定しています」としています。超過課税をしている自治体では、これより多くなります。
この計算機での扱い
このサイトの計算機は、退職1年目の住民税を前年の給与をもとに計算しています。上に書いた前年課税の構造をそのまま実装したもので、退職後の健康保険はいくらになるかで扱っている国民健康保険料も同じ構造です。金額は計算機の画面で確かめてください。
定額でかかる部分について、制度の値との食い違いがあります。制度の5,000円ではなく年6,000円で置いています。差の1,000円は、超過課税をしている自治体があるために高く出る側へ倒した丸めで、制度の値ではありません。倒している方向と理由は、この計算機が何を前提にしているかにまとめています。
住民税側の食い違いは、これで全部とは書けません。網羅を検証した結果ではなく、見つかったものを書いているだけです。たとえば老人控除対象配偶者(70歳以上)の配偶者控除は、年齢を聞かないので住民税でも一般の額を使っています。扶養控除も住民税に反映していません。どちらも控除が小さく出るぶん、結果は厳しい側に倒れます。低く出る側に残っているものは、上のリンク先に並べてあります。
退職金は計算に入れていません。受け取れば資産が増える側なので、入れないことで結果は厳しい側に出ます。同じ理由で、退職金にかかる住民税も計算に入っていません。上に書いたとおり退職金の住民税は支払時に差し引かれて終わるので、辞めたあとの支出として翌年に残ることもありません。
何ヶ月もつかを見る
辞めた翌年に届く住民税は、収入が無くなったあとに前年の所得に対して課される支出です。退職の判断をするときは、辞めた直後の生活費とは別に見ておく必要があります。
この計算機は、辞めたあとに自己負担になる国民健康保険・国民年金・住民税・所得税・個人事業税を織り込んで、貯金が何ヶ月もつかを出します。
住む市区町村で変わる健康保険料は退職後の健康保険はいくらになるかに、雇用保険の基本手当を収入に入れていない理由は「退職給付金」という制度は無いにまとめています。